第1章

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 身体を指先でなぞると、肋骨の段々が感じられた。  「うん……もっとちゃんと食べて欲しいな……」  「でも、フォワグラちっくに無理矢理食わせるのもな……」  「イヤなたとえね……」  しばらく猫のどんなところが可愛いか、なんて話していたら、咲が唐突に言った。  「そうだ! ね、ね、今度さ、花火しようよ」  「花火をやるくらいなら、オレはのろしをあげたい」  「……誰に、何を伝えるのよ?」  「東京に残してきたあの子に、オレの思いを伝えるんだ」  「……でぇ!?」  咲はまじまじとオレの顔を見つめてきた。  「それ……ほんと?」  「容赦なく嘘だ」  「…………!」  「な、なんで怒るんだ……?」  「ヘンな冗談は止めてよね!」  「そうだよ、淳くん」  珍しく、小由利まで責めてきた。  な、何だ?  「……分かったよ。花火だろ? 別にいいぞ」  「うん。私も」  「じゃ、決まりだね!」  咲は、にこにこと嬉しそうだ。  「で、いつにする?」  「早い方がいいな、あたしは。明日とか」  「ああ、そりゃ無理」  「何でよ?」  途端に、むくれた顔をする。  「金が無いんだよ。一週間くらい待ってくれりゃ、たまるけど」  「一週間~……?」  「んだよ。それくらい待ってくれよ。三年殺しの三年目が明後日って訳でも無いんだろ?」  「……何よ、それ?」  「知らないのか? 三年殺しってのはな……」  「ああ、いい、いい。聞きたくない」  咲は、大げさに耳をふさいだ。  「目をふさいでも、耳を覆っても、三年殺しはお前の背中に忍び寄るぞ」  「あたし、そんなの掛けられて無いもん。それより、一週間経てばいいの?」  「おう」  「じゃ、それでいいか」  「小由利もいいよな?」  「うん、私はいつでも」  「じゃ、それで決まりっと」  すやすや眠っているモヨ子を、社の裏に目に付きにくい所に置いてから、オレ達は帰った。  なんとなく外で食べたくなって、俺は昼食を食べに出かけていた。そして、今、満杯の腹を抱えてちゃぶ台の前に座っている。  (今日は真面目に勉強しよう……)  母さんに言われたからって訳でも無いけれど、確かに近頃、勉強をおろそかにしていた。  参考書を開いたとき、戸口にばーちゃんが立った。  「おや、淳、どこ行ってたんじゃ?」
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