壁ドン

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壁ドンなるものが流行っているそうだ。 イケメンが壁にドンと女の子を押しつけて「俺のことだけを見ろ」とか何とか、カッコいいこというものらしい。 見かけも性格も地味で、日々を仕事に忙殺されている私には関係ない話だ。 もっとも、違う「壁ドン」なら私は毎日経験している。 いつも決まって夜中の二時二分。 ドン! 私の住むアパートの西側の壁から壁を叩く凄い音がする。 隣人…と言いたいところだけど、私の住む部屋は二階西側の角部屋。壁の向こうに部屋はなく、隣に壁を叩く隣人などいるはずがない。 壁には窓があるけど、いつもカーテンがかけてある。 昼間は開け閉めするものの、夜中に開ける勇気はない。 ある日、テレビドラマで恒例の壁ドンをやっていた。シチュエーションは少し変わっていて、死んだ彼が幽霊になって彼女を守っている。そんな彼女が悪い男に騙されて危機一髪というところで死んだ彼が現れて救出、壁ドンして彼女を優しく諫めるというものだった。 「はぁ…いいなぁ。あんな素敵な彼なら幽霊でも傍にいて欲しいよね」 紅茶を啜りながら夜中に録画したドラマを観ていた私の独り言に、タイミングよく西側の壁から、 ドン! と音が聞こえた。 いつも通りの二時二分。 ふと、今のドラマの内容が心によぎった。 もしかして、イケメンの幽霊がいたりして… 私は少しワクワクしてきた。 今まで出会いらしい出会いもなく男運に恵まれなかったのは、私を守っていたイケメン幽霊のせいだったりして!? 私は思いきって立ち上がり、西側の壁にある窓へ向かう。 カーテンに手をかけて勢いよく開ける。 割れた頭部から赤黒い何かが漏れ出した、蒼白い顔に充血した真っ赤な眼をした不気味な男の霊が怨めしそうに私を見ていた。 世の中そんなに甘くはない。
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