第1章

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 その臭いは、 いつも夏月に遠い昔を思い出させる。 「いい子だ、 夏月。 おとなしくしてろよ。 母さんには言うんじゃないぞ」  ――あの時も、 そうだった。  怖くて気持ち悪くて、 声を出すこともできなかった。  あれはいつのことだったろう。  中学生、 小学生――いや、 もっと昔? 「ちょっと我慢してろ。 そしたらまた、 好きなもの、 何でも買ってやるからな」  粘ついた声でそう言って、 夏月を暗い小部屋に連れ込んだのは、 湿った畳の上に押し倒したのは、 あれは誰だったろう?  やがて身体の中に生ぬるい何かがぶちまけられるのを、 夏月は感じた。  重たい男の身体がどさりと降ってくる。  ぜいぜいとうるさい呼吸が耳元にかかった。  最初から最後まで、 夏月はただぼんやりと天井を見つめているだけだった。 ?
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