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その臭いは、
いつも夏月に遠い昔を思い出させる。
「いい子だ、
夏月。
おとなしくしてろよ。
母さんには言うんじゃないぞ」
――あの時も、
そうだった。
怖くて気持ち悪くて、
声を出すこともできなかった。
あれはいつのことだったろう。
中学生、
小学生――いや、
もっと昔?
「ちょっと我慢してろ。
そしたらまた、
好きなもの、
何でも買ってやるからな」
粘ついた声でそう言って、
夏月を暗い小部屋に連れ込んだのは、
湿った畳の上に押し倒したのは、
あれは誰だったろう?
やがて身体の中に生ぬるい何かがぶちまけられるのを、
夏月は感じた。
重たい男の身体がどさりと降ってくる。
ぜいぜいとうるさい呼吸が耳元にかかった。
最初から最後まで、
夏月はただぼんやりと天井を見つめているだけだった。
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