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すれ違いが続いている。
以前のように客とスタッフという関係ではない上に、鳴沢はまだ見習いとは言え、このグランドテラスキタノを背負う総支配人になる人物だ。
一介のベルが気安く声を掛けていい相手でもない。
経営学に聡い鳴沢でも、サービス業はまるで素人なので覚える事も多く、寝る暇もないようだ。
年末年始の忙繁期は、日和も目の回る忙しさだった。
従業員は勤務体系や休憩がきちんと整えられていても、上層部はそうもいかないだろうとは、北村を見ていればわかる。
いつも涼やかな佇まいの北村でさえ、時折疲れを滲ませる。
もちろん、客の前ではそんな素振りは露ほども見せないが。
新年会シーズンが終わり、一息つく暇もなくバレンタインシーズンに突入する。
ラウンジ、レストラン、ウェディングもショッピングフロアも、目玉企画の準備に活気づいていた。
全ての企画を承認し、把握し指導するのも鳴沢の仕事だ。
精力的にホテル内を見回る鳴沢を、日和は遠くから見守るしか出来ない。
時折耳に入る鳴沢の噂話にも、胸が痛む。
物腰が柔らかいながらもやる気にに満ち、自分はまだ経験不足だからと、驕らない低姿勢はスタッフの信頼を集めている。
何よりもあの甘いマスクは女性達を舞いあがらせる。
素敵だかっこいいとの、称賛の声を聞くたびに唇を噛んだ。
あの人は自分のもなのだと言えない息苦しさ。
本当に自分達は恋人なんだろうかと言う不安。
パートナーだと堂々と宣言したあの役員会議での出来事は、今でも忘れられない。
だけどあれから数えるほどの逢瀬でしかない日々が過ぎ、忙しさを言い訳にしながらも寂しさは募る。
バカンスに訪れる鳴沢を目で追っていたあの頃と何も変わらない。
いや、もっと始末が悪い。
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