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「なぜ震えているんだ日和。寒かったのか?」
首を振った。
伸ばしていはいけないはずだった手は、背の高い鳴沢にぶら下がるようにしがみ付いている。
「叔父貴から連絡がきた。日和がドアの向こうで泣いているはずだから今すぐ捕まえに行けと」
もう一度首を振った。
泣きそうだけど泣いていない。
それを見せたくて上向いた途端に涙が零れた。
「泣いてない……」
「嘘をついて、いけない子だな。そんな可愛い涙を見せるなんて……」
「めんなさ……い。来ちゃいけないって思ったけど、我慢できなくて。でもドアを叩けなくて、今帰ろうとしてて」
「そうか、間に合ってよかった」
二人の間にある全ての隙間を埋めるように、互いの腕に力がこもる。
触れ合える場所のどこもかしこも押しつけたかった。
言葉を交わすよりも、見つめ合うよりも、キスでさえもどかしいほどに。
鳴沢は日和を吸い尽くす勢いでキスを繰り返す。
体が暴走してしまいそうだ。
抱き合いたい。
素肌を感じたい。
鳴沢の体温が欲しい。
乱れる一方の頭の片隅にある小さなしこりの存在も、忘れてしまいそうで。
「一也さん……」
「黙って、もう止まらないから」
「うん……」
ずっと押さえ込んでいた男の欲望に全てを持っていかれた。
仮眠室のベッドへなだれ込むのは、これで二度目だ。
北村の部屋の隣にあるというだけで、日和にはここは犯し難い聖域に感じる。
そんな場所で、不埒な行為に耽るのは抵抗があったし、集中もできそうにない。
だけどあれは、クリスマスシーズン前で、やはりこんな風にギリギリまで我慢して、シーズンが始まってしまえば絶対に会えないと思ったから。
北村の留守中に、かなり強引に連れ込まれた。
若い性欲を持て余す日和には、気になるはずだった罪悪感も返って刺激にしかならず、鳴沢が驚くような乱れようをしたのは、恥ずかしかった。
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