第一話 バレンタインの魔法使い

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 会うたびに恋しくなる。  抱かれる度に鳴沢を求めてしまう。  思いのままにならない日々の繰り返しの中で、覚えたての快感ばかりが先走り、狂ってしまいそうだ。  もっと欲しい。  もっと抱かれたい。  鳴沢を困らせてはいけないと、戒める端から求めてしまう。  もう、どうしていいかわからない。 「一也さん、一也さん……」 「ここにいる。日和。ここにいるよ。お前を抱いているよ」  優しい声に宥められて、暖かい手で触れられて、これ以上ない幸せを感じるはずなのにもどかしい。  今夜が終わればまた、会えない日々が続く。  どんなに恋しくても、ひと目その姿を見たくても、鳴沢は手の届かない遠くへ行ってしまうのだ。  耐えられる気がしない。 「一也さん、早く」  どうして一つになれないのだろう。  どうして離れてしまうのだろう。  どうして。  どうして。  その先の答えなど、考えなくてもわかるのに。  男同士だから。  立場が違うから。  女性であればこんな苦労をせずとも、常に堂々と寄り添い、鳴沢の側にずっといられたはず。  迷いをごまかすように何度も名前を呼んだ。  そのたびに鳴沢はここにいると答え、日和の目を覗きこみ、切なそうに微笑んだ。  憐れんでいるような、寂しそうな目をして。  こんな表情を鳴沢にさせてはいけない。  求めれば求めるほど、鳴沢を困らせるような気がして苦しくなる。  なのに体は止まらない。 「あ……、あ、あ……」  鳴沢と繋がる、痛みと苦しさに紛れて涙を零す。  どんなに丁寧に優しく扱われても、この瞬間だけは否応なく体が鳴沢を拒絶する。  それは、神に逆らう罰のようだった。  痛みを乗り越え、苦しみを背負い、それでもお前は己の欲のままに生きるのかと。
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