第一話 バレンタインの魔法使い

9/29
前へ
/29ページ
次へ
「力、抜いて。もう少し。息を吐いて。そう……いい子だ」  痛めばいい。  苦しめばいい。  本当なら女性のパートナーを選ぶはずだった手の届かない人に、思いがけず見染められた。  それだけで、自分はきっと大きな罪を犯してしまったのだ。  だから……。 「日和」  ゆっくりと日和の中へ沈んでくる鳴沢の熱。  力を込めながら、少し辛そうに眉をしかめる。  感じている。  だけど抑えなければ日和が苦しむ。  そんな自制と思いやりの眉間の皺。 「きて、動いて、一也さん……」 「まだだめだよ。馴染むまで。ね?」 「いいから、早く一也さん、気持ち良くなって」 「日和」  鳴沢が自分の中で感じてくれたらそれでいい。  痛みのあるうちに、雄としての本能に鳴沢が飲み込まれてしまえばいい。  そうすれば、少しは自分の罪が軽くなる気がした。 「う……」  押し上げられる息苦しさに、呻きそうになった唇を噛んだ。 「だめだ日和。唇が切れてしまう。我慢しないで、ほら。息を吸って」 「うあ、あ……」  噛みしめた唇を優しく辿られ、封印を解かれた。  じくりと疼き始めた下半身の熱から、泉のように湧き出るむずがゆさが広がっていく。  鳴沢に気持ち良くなって欲しいのに、この体は勝手に暴走しだす。  目もくらむような快感を教えられた。  愛と欲望がない交ぜになったドロドロとした悦びに支配されてしまう。  擦って欲しい。  かき回して欲しい。 「ここ? もっと奥?」  うんうんと頷くと、刺激を欲しがる体の奥が、ざわめいて鳴沢を求めた。  はしたなく、淫らに、生々しい熱と、いやらしい音をたてる器官の動きを伴って。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

738人が本棚に入れています
本棚に追加