第三夜:歩美

46/46
前へ
/47ページ
次へ
「嫌だ……助けて……お願い…………。まだ……死にたくない……。私はただこの村がどんな場所なのか……知りたかっただけなの……」 念仏のようにそう呟きながら後ずさりする私の背中は、いつの間にか壁にピタッとついていた。 ギシィ……ギシィ…… 目の前に近づいてくる巨大な黒い影から、大型犬のような唸り声のようなものが聞こえる。 「うぅ……うぅぅぅぅぅ…………」 手には私の腕よりも長いノコギリを持っている。 「うぅぅぅぅ……あぁぁあああああああ」 黒い影は大声で叫びながら、ノコギリを持つ右腕を高く振り上げた。 その瞬間、走馬灯のように頭の中にスレッドが流れる。 『この村の終わりには崖がある。 この村には誰も住んでいない。 この村には決して足を踏み入れてはいけない』 この村の終わりには確かに崖はあった。 足を踏み入れちゃいけない場所だと言うことも解る。 ただ、誰も住んでいないというあの言葉は、嘘だ。 そう考えた時、既に私の首は胴体から離れ落ち、膝を抱えて座る自分の肉体を見つめていたーーーー 完 image=489403604.jpg
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1040人が本棚に入れています
本棚に追加