89

2/7
331人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 タツオはようやく絞(しぼ)りだした。 「……ぼくなんかが同じ班になって、済まなかった」 「まあ、いいよ。おれ、カザンも五王財閥のぼんぼんも苦手だから」  早々のリタイアと年金生活を夢見るクニだが意外にも骨があった。こいつは軟派な振りをしているが、中身は硬骨漢である。  ジョージがいつものように涼しげにいう。 「カザンがくる。なにかタツオに挨拶(あいさつ)があるみたいだ」  相撲部の先輩たちが倒れている後藤に活(かつ)を入れ、肩を支えながら試合場から離れていく。カザンは鼻血まみれの巨漢をあっさり無視して、脇をとおり抜けた。こちらまでやってくると、まだ立ちあがることもできないタツオを、冷たく見おろしていった。 「無様(ぶざま)だな、タツオ。あんなデブひとりになにをそんなに手間どっている。おまえには逆島(さかしま)家の秘伝があるんだろう。わが東園寺家と同じようにな」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!