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ソフト部だろうか、ファイトー、なんて甲高い女子の掛け声が一キロ半もの距離を飛び越えて、俺の鼓膜まで届いて来る。中学で習った理科の知識を引っ張り出して、たぶん四、五秒くらい前の音だろう、とか無為な計算をしてみるけど、
「はぁ……」
結局俺には、ため息を吐く事くらいしかできないのだった。俺と高校生活の距離はもう、音速でも埋められないくらい致命的に開いてしまった。俺がこの畑で泥まみれになって足踏みをしている間に、同級生たちはみんなそれぞれの目標に向かって全力疾走を続けている。
『ま、大変だんべがしっかり頑張りぃよ』
よっこらと、再び連綿と続く畝の列に腰を沈めながら、ふと絹子婆さんが去り際に残した言葉を思い出した。
『大丈夫さね、この家にゃあ、畑の神さんがついてんだから。畑の神さんはお前ぇさんが働いてるとこ、ちゃあんと見てるに違ぇ無ぇ』
「……畑の神さん、ねぇ」
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