はたけのかみさま！

1.人と人が出会うのは、春だけとは限らないのです

俺の苗字は、畑上と書いて『はたけのかみ』と読む。たぶん日本中探してもうちしか無いような珍しすぎる苗字だけど、実は謂れまではっきりしていて、すぐそこ、通りから畑の隅へ食い込むようにして建っている小さな祠が、何やら『はたけのかみ』様らしいのだ。

見たところ農業の神として有名なお稲荷さんでもないし、うちの氏神はこれとは別に当のお稲荷さんを祭ってある。名前も出自も不明な謎すぎる神様なんだけど、不思議とここの畑を耕す人は幸せになれるのだとか、祖父も事ある毎に言っていたものだ。

なぁ、畑の神さん。見てるんなら頼む。何とかしてくれないだろうか。自分で言うのも何だけど、何かご褒美もらってもいいくらいは頑張ったと思うんだ。

この際、女の子なんて贅沢は言いません。願わくはせめて看取り世代じゃなくて、同じ高校生と楽しい会話をさせて下さい。そりゃあ、女の子の方が嬉しいし、同じ学校なら毎日会って話せるし、ついでに畑仕事も手伝ってくれたりなんかしたら完璧だけど、そんなかぐや姫のお願い事みたいな無理難題は言いませんから。