1.人と人が出会うのは、春だけとは限らないのです

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まぁいいのかよ。ジジイ死んでるんだけど。と心の中で突っ込みつつも、 「あ、どうも」 ちゃっかり煎餅につられてしまうのだから我ながら何とも間が抜けているなぁと思うのであった。 この婆さんは絹子さんといって、ここらの土地の化身みたいな人だ。本人は今年で八十歳だと言い張っているけど、少なくとも俺は同じ台詞を小学生の頃に聞いた記憶がある。 絹子婆さんが煎餅をくれたら休憩の合図だ、と祖父もよく言っていた。それはこの辺りの集落で暗黙の了解になっているらしく、休みの日なんかに自転車を転がしてコンビニに出かけると、畑の隅で絹子婆さんと一緒に煎餅を齧る老人の姿をよく見かける。 これが若い女の子なら疲れを癒してくれる畑の妖精みたいで微笑ましいけど、残念ながらどう見ても妖精じゃなくて妖怪なんだよなぁ。 「若ぇのに毎日畑に出てよぉ、菊之助さんもいい婿養子を貰ったねぇ」
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