たった一歩、されど一歩

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振り返るとカイ君が音にしないで、口の動きだけで『頑張れ』と言った。 覚悟を決めて手嶋君たちの前に飛び出す。 「おっ、おはよう!」 緊張で顔が火照っていく。ドキドキして前が見れない。 手嶋君はどんな顔をしているのだろう、隣の女の子はどんな気持ちなんだろう。 不安に駆られつつもなんとか顔を上げる。 「おはよう、天原。そっちから挨拶してくれるの初めてだな。嬉しいよ」 「おはよう颯姫ちゃん、よかったら一緒に行こ!」 手嶋君の隣にいたのは私の数少ない親しい友達で、手嶋君の幼馴染。 緊張しすぎていて全然気がつかなかった。 私の思いを知っていて、応援してくれている。 今も手嶋君に聞こえないような声で私に囁く。 「よく頑張ったね。一歩前進?」 少し嬉しくなって後ろを振り返ると、カイ君が親指を立てて、歯を見せて笑っている。 手嶋君の隣を歩くとき、心臓が早鐘を打っているのが彼に聴こえてしまったらどうしよう、なんて思ったりして。 嬉しい。 ただ純粋に心からそう感じた。
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