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何かを話そうとも思ったけど、やっぱりクラスメートの前だと勇気が足りなくて、結局教室に着くまで何も言えなかった。
その間カイ君が私のことを、ため息こそつかなかったものの、眉間に少し皺を寄せて見ていた。
いつもは澄んだハニーブラウンの瞳も、心なしか濁って見える。
それは純水だけが入ったバケツに一滴の墨汁を垂らしたかのように僅かな濁りではあったけれど、確実に全体に広がっていた。
呆れられたのかもしれない、と落ち込む。
この日、学校に着いてからの午前中には手嶋君と一言も話せなかった。
午前最後の授業が終わると、カイ君が口の動きだけで「来て」と言って私を手招きする。
「もしかして、僕のやってる事ってお節介だった?」
私が近づいて開口一番に紡ぎだされたのは、そんな悲しい言葉だった。
「お節介だなんて、そんなこと思ってない。私のことを思って親切にしてくれてることが、すごく嬉しいって思ってるよ」
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