恋のキューピッド

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朝日が部屋に差し込み、私、天原颯姫(アマハラサツキ)はゆっくりと瞼を上げた。 「またこの夢…」 今までに何度も見た夢。もっと先が知りたいと思っても、いつも同じところで目が覚める。 顔はあまり見えないけれど『彼』は多分知らない人で、夢の中の人のはずなのに、この夢を見る度に胸が締めつけられるような苦しさと、思わず涙が出そうになるくらいの懐かしさを感じる。 もし『彼』がこの世に存在するのなら、今もあの切ない表情を浮かべているのだろうか。 夢に思いを馳せていると、目覚まし時計が音を立てて存在感を出す。 そういえば今日も早く起きてしまっていたのか。 時計のアラームを止めながら、どこか他人事のようにそう思った。 「…そろそろ行かなきゃ」 いつまでも答えのない考え事をするわけにもいかないし、私はそこで『彼』について考えることをやめた。
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