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「教えない。教えるほど大層なものじゃないから」
「ケチ」
私が拗ねてみせると、カイ君は肩をすくめてから、人差し指を口の前で立てて笑顔を見せる。
「秘密は多いほうがミステリアスでよくない?だからナイショ」
この時初めて、私にはいたずらっ子のように笑う彼が小悪魔に見えた。
「ほら、テジケンあそこにいる」
カイ君の指差す方を見ると、そこには彼の言った通り手嶋君がいる。
「今日もきちんとやらないと、あっという間に終わっちゃうから。押して押して押しまくれ!」
少し変な喝の入れ方だけど、カイ君なりの精一杯の応援だと思うと、自然と笑顔になれた。
「ありがとう、行ってくるね!」
私はカイ君を一度振り返ってから、手嶋君のところへ駆け出した。
「…頑張れ、颯姫」
小さく言葉を発したカイ君が、どんな気持ちで私を送り出していたかなんて想像もしなかった。
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