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志津子が、セーヌ川めがけて小石を投げた日から、
……十年余りの月日が流れ………
そんな月日の流れた真夏の昼下がり、
初々しい大人の薫りを漂わせる、ひとりの青年が成田空港に降り立った。
「お母さん……着いたよ。
お母さんが、時々懐かしそうに話していた日本に、僕とお母さんは着いたんだよ」
そう呟やく青年、画一は、
空港近くの宿泊ホテルに赴き、屋上に上がった。
そうして、包みを解いて、縁のある小さな遺影を手にしたのだった。
「お母さん……見えるかい?
お母さんは、本当に日本に帰って来たんだよ、ほらっ!」
画ーはその遺影を高く掲げると、ぐるりと身体をねじって回った。
そうやって回す画ーの眼には、大粒の涙が溢れていた。
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