第1章

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三月も終わりに近づいているというのに、少し肌寒く感じる夜。 年老いた身体に加え、持病の喘息が出て先ほどまで寝ていた島田には堪えるのか、巨体をぶるっと震わせた。 暫く体調が優れず、西本願寺の守衛の仕事を休んでいたが夜になると酷くなる咳が今夜は嘘のように一つも出ない。 ――ずっと床に就いていたから良くなったのだろう―― そうなれば、いつまでも仕事を休んでいるわけにはいかない。 それに、少しは鈍った身体を動かすのも悪くない。 そんな思いから今夜は急遽、自主的に守衛にあたっていた。 しかし、いつもの道順で巡回しているものの病み上がりの身体で歩き回るには西本願寺の境内はあまりにも広い。 「よっこらしょ」 島田は荒くなった息を整えようと本堂へ上がる階段に腰を下ろした。 身体が温まったわけでもないのに額から溢れる汗を拭うが、その手にもじっとりと汗が滲み出ている。 はぁ・・・ 一つ大きな深呼吸をしてみる。 溜息にも似たそれは静まり返った境内で物寂しく響き、暗闇へと消えた。 頭の中では問答が繰り広げられていた。 妻の言うとおり、あと一日休んでいた方が良かったのではないか。 いや、休めば休んだ分、再び元の様に動けるまでが辛いのだ。だから休むのは一日でも少ない方がいい。 しかし、もともと今夜は暇をもらっていたのだ。いや、体調が優れなかったために頂いたもの。動けるならば勤めを果たすべきなのだ。 そんな自問自答の最中、ふと微かな光を目の端に捉えた。
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