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部屋に近づくに連れ、人の話し声が聞こえてきた。
五、六人はいるだろうか。
その声は潜める様子もなく、だんだんと島田の耳にも辛うじてではあるが内容が聞き取れるものになった。
(「・・・の腹の・・・」「久し・・・会って勘弁・・・左・・・さん」「・・・方さん・・・お団子・・・」「・・・はは・・・」)
聞こえてくる声は目の前の障子の向こうからのはずだが、何故か空から降ってきているように感じる。
息を潜めるどころか、楽しそうに談笑する声に島田は警戒するのを止めた。
いつの間にか流れていた涙をぬぐい、障子を開ける。
一斉に島田の方を向いた顔はどれも懐かしいものだった。
島田がここで住んでいた頃、毎日のように合わせていた顔。
あれから時を経て自分だけずっと遠くへ来てしまった気がするのに、彼らは変わらずあの頃のままここに、ずっと側にいた。
気付けば先ほどまでは嘘の様に身体は軽く、心地よい温かさに包まれている。
「おう、島田。丁度いいところに来た。久しぶりに俺の腹の傷を・・・」
「もう、それはいいってば!」
「原田さん・・・藤堂さん・・・」
「島田君も一緒に団子どうだ?」
「近藤さんが買ってきてくれたんです。とっても美味しいですよ」
「局長・・・沖田さん・・・」
そして部屋の一番奥で不敵な笑みを浮かべている男。
「よう、島田。ご苦労だったな」
「土方さん・・・!」
――翌朝
北集会所の近くで倒れている島田が寺の者によって発見された。
その顔は穏やかで、まるで眠っているかのようだったという。
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