第1章

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風がフッと流れを変えた。それは突然訪れる。 「ヌッアッ……!」気合が吐く息と共に漏れた。一気に踏み込む。刀の風切り音がシュシュと蛇のように鳴る。目の覚めるようなスピードだ。刀の切先がムサシの眉間に向かって真っ直ぐ伸びてゆく。 刀も抜いていないムサシにこれが止められるわけがない。僕は片頬に笑みを浮かべた。 ムサシが蜃気楼のようにユラっと動く。バッと前をはだけた。こんもりとした二の腕と見事な胸筋が露わになる。 その両手に二本の短刀。 あ!卑怯な!刀を懐に隠してやがった! ムサシがにやっと笑う。「俺は…六差し…ムサシ…だ!」 刀は合計六本。小次郎渾身の1の太刀を左手の太刀で受け止め、右手の太刀で横っ腹を払うつもりだろう。これが十文字斬りか。 そうはさせるか!秘技、ツバメ返し…… 僕はムサシの左手に握られた受けの太刀にちょこんと自分の太刀を軽く合わせる。すぐさま打太刀を左に急旋回させた。燕返しだ。手ごたえ有り。 バシュ!と血しぶきが上がる。僕の左腹を払うはずのムサシの右手がクルクルと何度も中空を刀と共に回転する。地面に落ちた。刀がグサリと地面に突き刺さる。刀の柄を握ったままの二の腕が天を向き、噴水のように血飛沫があがる。 ふふふ。勝負あったな。海斗…… 海斗ことムサシが痛そうに顔をしかめている。今楽にしてやるぞ。待ってろよ。ふふふ。ゲットできるSSコインの枚数が頭にチラつく。僕は勝ち誇って刀を上段に振りかざした。と、その時。 シュルシュルと鳴る風切り音。あ!と気がついた時はもう遅い。 喉笛に深々と短剣が刺さっている。首をめぐらすと忍者姿のユキが立っている。 「ゆきちゃん。そっちの味方かい……」口から血がゴホゴホと吹き出してうまくしゃべれない。イタイ。とにかく痛い。 「ごめんね。そういう設定だから……」ゆきちゃんが笑顔で答える。 …イチモ…ツヤ…ルカ(いつもやんか!)…と言うつもりが言葉にならない。ごぼごぼと口から血を吐いて僕はどうと倒れた。 目の隅にムサシとユキの勝ち誇った顔を捉えた。意識が朦朧としていく。ブラックアウト
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