水色

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カリッと小さな音を立てて、シャーペンをテキストへと滑らせる。 反対からテキストの文字を読み取るのは割と難しいけれど、それ以上にミナキの視線に耐えながら解説していく方が辛い。 大体、ミナキと僕の成績はほぼ同じくらいだ。 多少おかしな解説をすれば逆に僕が追い詰められてしまう。 それでも。それでも僕がここに居るのは。 「あーあ、そんなに可愛い顔しちゃって。」 「......は?」 ボキッとシャーペンの芯が折れる音がして、動揺がありありと浮かび上がっていた。 今のは僕に言ったのか、とそう問う前にチラリと視線だけをテキストからミナキに向けるも、ミナキの視線とは交わらなかった。 それどころかミナキの視線は僕に向けられていない。彼の視線は窓の外に見える一人の女の子に向けられていた。 一瞬でも、期待した僕が悪いのだけど。この仕打ちはないだろ、と心の中で舌打ちをする。ミナキの顔はいかにもな、恋する男の顔をしていた。 好き、なのだろう。 彼女の名前を僕は知らないけれど、きっとミナキはずっと思っているのだ。 ぶわりと胸に感情が広がる。言うまでもない、嫉妬だ。 ミナキに想われる、少女への。 「サツキ?」 気がつけば今度は僕が少女に目を奪われていて、ミナキが訝しげに僕の名を呼ぶ。 あぁ、そんな目で見ないで。 不安を含んだ目でなんて。 僕はミナキから彼女を奪ったりしない。 そんなこと、できるはずないのに。 「確かに、かわいいな。......ミナキが好きそう。」 ギシッと音を立てた僕の心は、ミナキに伝わらなければいい。 それでお前が幸せになれるなら、それでいい。
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