CHAPTER 2  氷雨の街

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 家には――二度と、 帰れない。  その理由を思い出すだけで、 吐き気がする。  夏月は何も言えず、 ただうつむいた。 膝の上で強く両手を握り締めていないと、 全身が震え出してしまいそうだった。  いつもそうだ。 誰かがこうして優しい言葉をかけてくれるたびに、 心の天秤がバランスを失って大きく揺れ始める。 みんな諦めて楽になってしまいたいとすすり泣く自分と、 それでもまだ生きていたい、 何かを信じていたいと泣き叫ぶ自分と。  ギイはそんな夏月の様子を見つめ、 やがて小さく吐息をついた。 「……送っていくよ」  立ち上がり、 リビングに置いてあったミニクーパーのキーを手に取る。
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