第1章

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 新たな門出という季節から少し経った穏やかな小春日和。その丁度昼頃、桜が舞い散る中庭の呑気な雰囲気を他所に、日が当たらない建物の影ではとある事が行われていた。  こういう言い方はどうかと思うが、〝ソレ〟は何処にでもありがちな光景だった。〈青海学園〉その一見爽やかで格式のありそうな名称の学校でも、行われている裏事情はある。それは人の醜い部分とも言える、即ち、簡単に言えばイジメであった。  「おらぁッ」  「ジャブッ、ストレぉート!」  大きく三棟に分けられた学園校舎の人目が付きにくい第二校舎裏側、他の者が気付きにくい場所で、一人の少年は四人という数の暴力に抗う事も出来ず、無惨に蹴られ、殴られていた。  片方の腕一本ずつをそれぞれ二人に抑えられ、残りの二人がサンドバックにする。そのローテーション制。  ……集団生活というものは、他者との差別化を必然的に生み出してしまう。それは人を判断する上で仕方のないことかもしれないが、実情は酷いものである。その差別という過程はいとも簡単に、このように派生してしまうのだから。それが成人してもいない年端もいかない子供なら、尚のことだ。いや、大人になれどそれは残る。世界に戦争というモノが無くなっていない限り、少なくともそう言わざる得ないだろう。  ただ単に気に入らないーー複数人のそんな理由で、華やかで彩る青春時代を送るはずだった一人の少年の高校生活は、四人のイジメで灰色と化していた…………訳ではなかった。  「チッ」  「こいつマジウゼ」  「おい、お前がやり返してくるからちょくちょく汚れんだよ。そこらへん分かってる? クリーニング代出してくれんの?」  「中々折れないね~、この馬鹿は」  「そうそう、それを幾ら言っても無駄だしよー」  蹴る、殴る、蹴る。それはいたぶることを楽しむかのように、またイジメられるものが絶望で朽ちるように、緩急を持って行われる。  「まぁ、そういう奴だからまた殴りたくなるんだよねー」  「だろー? こいつが屈服するまで絶対やめねーよな。なぁ、波 瀬 倉 く~ん?」  「そうだな」  「チッ、これだけやってもまだ凝りねえかああぁ!? ああん?!」
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