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私はすぐに、その後を追いかけます。
「なるべく、いいやつを選ばないとね」
咲ちゃんは、ダンボール箱を覗き込んでいます。
「それに、形もきちんと揃えないと」
「うん。……ところで、何ユリだったっけ?何か、強そうな名前だったけど」
咲ちゃんは花のひとつを手に取りました。顔の前に近づけて、両目を真ん中に寄せます。
「テッポウユリだよ」
「ああ、そっか。でも、何でテッポウなの?」
「それは知らないけれど……」
「鉄砲玉に手向ける花とか?」
「テッポウダマ?」
「知らない? やくざ映画とかで、敵の組長の命取りに行く人」
「……知らない」
「鉄砲玉はさ……一度飛び出すと、戻ってこないんだよね」
「……どうして?」
「だって、相手のやくざに殺されちゃうんもん……飛び出したら、戻ってこない。だから、鉄砲玉」
「…………」
「淳は……戻ってくるかな? それとも、もう、こっちには来ない?」
「花……別のにしようか?」
すると咲ちゃんは、目を丸くして首を振りました。
「ううん! そんなの必要ないって。この花、かっこいいし」
テッポウユリは、パーティーで使うクラッカーのような形をしています。だから、この花を選んだのです。尖った方を下にして、頭に立てたら、立派な冠のように見えると思ったのです。
咲ちゃんは、テッポウユリから視線を外すと、寂しげに微笑みました。
「鉄砲玉ってのはさ、だいたい幹部の椅子が待っているんだよね。もい万一、戻れたらの話だけど」
「ふうん……」
「だからね、あたし達が、その椅子なんだってメッセージを込めてね。……この花がいいよ」
「うん……」
私は深く頷きました。
淳くんにとって、私たちがそういった存在であるんら、こんなに嬉しいことはありません……。
「じゃ、はじめよっか」
「うん」
………………。
…………。
……。
しばらく経った時のことでした。咲ちゃんが、ぽつりと言いました。
「ねえ、小由利……」
「え? 何?」
妙にしんみりした口調だったので、私は不思議に思いました。
「小由利が、あれ、……小堺に目の敵にされていた理由って、淳に話したの?」
「あ……ううん、別に……」
「話して無い?」
「うん……」
「そう……」
咲ちゃんは私から目を転じると、遠い視線を辺りに向けました。
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