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バスを降り、星野の住んでいるアパートを横目で見ながら少し高台に登ると、なるほど、住宅地の端の公園で南東方向は開けていて、180度は遮るものが無い。
オマケに外灯も無くここならなんとかなるかも知れない。
「へえ、星野いつもここで宇宙を見上げてるんだ。」
「うん、結構穴場でしょ。
あたしの観測スポットなの。」
「ここで見るなら最初からあの大荷物、持ってこなくても取りに帰ればよかったのに。」
「あ、そうか。
そうだね、そうだよね。
あたしホント考えなしでバカなんです。」
まだ日が落ちる時間じゃないけど大分暗くなってきた。
雨や雪は降ってないけど、雲に切れ間は見えない。
まあ、乗り掛かった船だ。
真っ暗にならないうちに準備をしないと。
星野の準備は半端じゃなかった。
簡易追尾装置付きの三脚とカメラ。追尾装置なしの三脚とカメラが2セット。
アウトドア用で背もたれが倒れる椅子が2脚と封筒型寝袋2枚。
確かにコンディションさえ良ければ夜通し空を見上げていられるかもしれない。
「これ、全部お前が準備したのか?」
「あたしのはこのカメラと三脚だけですよ。あとは部の備品というか、先輩達の置き土産というか。」
つまり、昨日と今日の昼間に部室から半分以上運び出したということらしい。
「飲みますか?」
「あ、さんきゅう。」
一通り準備が終わったところでポットからコーヒーを入れてくれた。
「寒いときのコーヒーは滲みるね。」
「まだありますから。」
「ああ、ありがと。
でも今はいいや。」
一時の暖はとれるが、この寒空の下、すぐトイレに行きたくなっても困る。
もう日没時間は過ぎたが雲は切れない。
ふたりして何もしゃべらずリクライニングさせた椅子でただただ空を見上げる。
「なかなか星が見えてこないね。」
「そうですね。」
今はただひたすら雲が切れるのを待つしかない。
おれは元から口数の多い方じゃないし、あまり気のきいた話もできない。
かといって、スマホでゲームをするには空気が冷たすぎる。
また、沈黙が始まる。
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