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その後、荒間署はいつにもまして騒々しくなった。
永田殺害の容疑者として逮捕された高城隼人は、荒間署二階にある取調室に入った。彼がまだ未成年であるため、取調室には捜査一課の刑事だけでなく、荒間署の生活安全課少年犯係も同席することになった。
荒間署全体が喧騒に包まれる中、大輔は三階の生活安全課にいた。なにもすることがなく、なにもできず――。
高城の逮捕に立ち会ったが大輔だが、捜査の担当ではない。大輔にこれ以上、高城にしてやれることはなく、彼に会うことも難しい。
どれほど大輔が高城を心配しても――。
生活安全課は、人が出払って無人だった。殺人事件の犯人が逮捕されると、担当所轄署は非常に忙しくなる。人手はいくらあっても足りない。
しかし大輔は、勝手に捜査一課の事件に首を突っ込み、高城を逮捕したことを問題視され、高城の件に一切関わらないよう厳命されてしまった。
そのため、無人の生安課で電話番をしていた。正式な処分は今後、落ち着いてからだろう。
(大丈夫かな……)
大輔は、自分のことではなく、高城のことを考えていた。
深く傷ついた彼が、取調室で大勢の屈強な男たちに囲まれ、どんなに怯えているかと思うと、この場にいる自分がもどかしかった。
彼を最後まで守れなかったことが、悔しい。
大輔は顔をクシャリと歪め、悔しさを誤魔化すように冷めたインスタントコーヒーを飲み干した。やはり、あまり美味しくない。あのカフェの、淹れ立てコーヒーが飲みたかった。ため息が出てしまう。
「……落ち込んでんじゃねぇよ」
がさつな足音とともに、晃司が現れた。
「小野寺さん……どこ行ってたんですか?」
晃司も大輔と同じく、現在はほぼ謹慎中の扱いだったはずなのに、彼はしばらく生安課から姿を消していた。いつの間にか。
「電話番なんて一人で充分だろ? ほら」
晃司は大輔のそばに立つと、紙袋を差し出した。それはまさに今、欲しいと思っていたあのカフェの紙袋だ。
思わず、満面の笑みになる。
「美味しいコーヒー飲みたいって、ちょうど思ってたんです。ありがとうございます!」
喜んで晃司を見上げると、晃司も同じように笑顔だった。
優しい笑みに、ドキリとする。が、晃司はすぐに偉そうに笑って、フフンと鼻を鳴らした。
「すげぇだろ。俺、優しいだろ? いい男だろ? 小野寺さんイケメン! と言え」
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