第五章 危険な夢のつづき

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 その後、荒間署はいつにもまして騒々しくなった。  永田殺害の容疑者として逮捕された高城隼人は、荒間署二階にある取調室に入った。彼がまだ未成年であるため、取調室には捜査一課の刑事だけでなく、荒間署の生活安全課少年犯係も同席することになった。  荒間署全体が喧騒に包まれる中、大輔は三階の生活安全課にいた。なにもすることがなく、なにもできず――。  高城の逮捕に立ち会ったが大輔だが、捜査の担当ではない。大輔にこれ以上、高城にしてやれることはなく、彼に会うことも難しい。  どれほど大輔が高城を心配しても――。  生活安全課は、人が出払って無人だった。殺人事件の犯人が逮捕されると、担当所轄署は非常に忙しくなる。人手はいくらあっても足りない。  しかし大輔は、勝手に捜査一課の事件に首を突っ込み、高城を逮捕したことを問題視され、高城の件に一切関わらないよう厳命されてしまった。  そのため、無人の生安課で電話番をしていた。正式な処分は今後、落ち着いてからだろう。 (大丈夫かな……)  大輔は、自分のことではなく、高城のことを考えていた。  深く傷ついた彼が、取調室で大勢の屈強な男たちに囲まれ、どんなに怯えているかと思うと、この場にいる自分がもどかしかった。  彼を最後まで守れなかったことが、悔しい。  大輔は顔をクシャリと歪め、悔しさを誤魔化すように冷めたインスタントコーヒーを飲み干した。やはり、あまり美味しくない。あのカフェの、淹れ立てコーヒーが飲みたかった。ため息が出てしまう。 「……落ち込んでんじゃねぇよ」  がさつな足音とともに、晃司が現れた。 「小野寺さん……どこ行ってたんですか?」  晃司も大輔と同じく、現在はほぼ謹慎中の扱いだったはずなのに、彼はしばらく生安課から姿を消していた。いつの間にか。 「電話番なんて一人で充分だろ? ほら」  晃司は大輔のそばに立つと、紙袋を差し出した。それはまさに今、欲しいと思っていたあのカフェの紙袋だ。  思わず、満面の笑みになる。 「美味しいコーヒー飲みたいって、ちょうど思ってたんです。ありがとうございます!」  喜んで晃司を見上げると、晃司も同じように笑顔だった。  優しい笑みに、ドキリとする。が、晃司はすぐに偉そうに笑って、フフンと鼻を鳴らした。 「すげぇだろ。俺、優しいだろ? いい男だろ? 小野寺さんイケメン! と言え」
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