第二章 あぶないラッキー

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 生活安全課保安係に配属されてから数週間。大輔は少しずつ、訳あり物件だらけの職場に慣れてきた。自分の机でノートパソコンと向かい合い、事務仕事も手早くこなす。  というより、配属されて数週間、大輔のメインの仕事は事務仕事ばかりだった。保安係は荒間署管内の風俗営業の許認可を一手に受けているので、書類整理だけでもかなりの仕事量なのだ。  荒間署管内には、巨大歓楽街北荒間がある。元からギャンブル客相手のそれなりに大きな歓楽街であったが、近年の首都浄化作戦で東京を追い出された風俗店がこぞって北荒間にやって来たため、現在の北荒間は史上最大規模らしい。  そのため、保安係は慢性的に人手不足の状況で、誰もが大量の書類仕事を抱えていた。あまりに人手が足りず、同じ生安課の隣の部署、防犯係に無理をいって手伝ってもらっているほどだが、薬物犯罪を担当する防犯係も同じように忙しく、いつも文句を言われている保安係だった。  気だるい午後。書類と向き合っていると、どうしてもあくびが出る。 「……パチンコ、雀荘、キャバクラ……風俗は店舗型に無店舗型……」  何組もの書類を抱え、大輔はあくびをかみ殺して呟いた。それに反応し、隣の席の一太が振り向く。一太も同じように提出された書類を確認作業中だ。 「風営法の範囲、広すぎると思わない? しかもこういう店って、入れ替わりも早いから……先月営業許可出した店が、次の月には別の店になったって申請に来るんだもん。おっつかないよね」 「……なんか俺、警察官ていうより、役所の職員になった気分です」  大輔の素直な感想に、前の席の桂奈がプッと噴いた。桂奈も同じく、書類仕事中だ。 「これだったら、交番の方が面白かったんじゃない? 少なくとも、机に座りっぱなしじゃないもんね」  はぁ。とため息のように答えながら、ここ数週間の保安係の仕事について考えてみる。配属当初、いきなり無許可営業の違法風俗店を摘発――といういかにも生安課らしい仕事をしたが、その後は書類仕事ばかりで、あとは一、二回、消防署と保健所の定期点検に付き合って出動したぐらいだ。  それ以外は――この席でひたすら書き物、書類のチェックばかりしている。  桂奈が、「う~ん」と背伸びした。 「あれ? そういえば小野寺さんは?」
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