第1章

2/14
前へ
/14ページ
次へ
   CHAPTER 3  月に濡れるふたり 「稲垣りつ子さんをご存じですね? 彼女が逮捕されたことは知ってますか?」 「ええ、まあね。ニュースでも見たわよ。女子高生の売春クラブやってたんでしょ」 「その顧客名簿に、お宅さんの名前もあったようなんですがねえ……」 「そりゃ逆よ。彼女がアタシの美容室のお客だったの。で、渋谷にクラブ開いたから遊びに来てって誘われてさ。アタシが行った時は、ただのダンス系のクラブだったわよ。可愛いDJの男の子がいてさぁ」  警察に任意同行を求められたギイは、だが、ごく簡単な事情聴取を受けただけですぐに帰宅を許された。 「なによ、失礼しちゃうわね! なーにが『そうですよねえ、お宅さん、女の子には用がないでしょうからねえ』よッ! ヒトを勝手にホモ扱いすんじゃないってぇの!!」  それも夕飯時に押しかけて、すみませんでしたの一言もないんだから、と、怒りも収まらないまま、マンションへ戻ってくる。 「ただいまぁ!」  玄関のドアを開けると、室内の空気がやけに冷たい。そろそろ暖房なしでは過ごせなくなる時期だというのに。 「……夏月?」  答える声は、なかった。  がらんとしたリビングルームには、誰もいなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加