2人が本棚に入れています
本棚に追加
夏月と同じ年頃なのに、にやにや笑うその表情は欲望がにじんでいやらしく、まるで中年男のようだ。引きずるように着崩した服装と中途半端に生えたひげが、とてもだらしなく薄汚く見える。
「オレさ、おもしれぇとこ知ってんだよ。一緒に行かねぇ?」
「な、飲みに行こうよ。どうせヒマしてんだろ?」
夏月が何も答えないうちに、少年の一人が夏月の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
夏月は何の抵抗もしなかった。操り人形のようにぐらりと身体が揺れ、少年にもたれかかる。
「なんだぁ、こいつ。ラリってんじゃねーの?」
「いいじゃん。酒飲ませてツブす手間はぶけっしよ。そのへんのホテルとかに連れ込もうぜ」
少年達は無遠慮に夏月の細い肩や腕を撫で回した。
夏月は何の反応もしなかった。――何がどうなってもかまわない。自分なんて、どうなってもいい。こんな身体、何人の男に犯されたって、もう同じこと……。
犯されて犯されて、ぼろ切れみたいになって、そのまま死んでしまえたらいい。
少年達に引きずられ、夏月はふらふら歩き出した。
だが、その時。
「夏月ッ!!」
耳に馴染んだ声が、鋭く夏月の名前を呼んだ。
まさか……まさか。夏月は小さく頭を振る。まさかこの声が聞こえる筈はないのに。
けれど、間違えるわけもない。この張りのある優しいテノール。
「夏月。こっち向きなさい」
振り返ってはいけない。――もう戻ってはいけないと、自分で決めたのに。
ぜんまい仕掛けの人形のようにぎこちない動きで、夏月は振り返ってしまった。どうしても我慢できなかった。
夏月を引きずる少年達の肩の向こうに、すらりと引き締まった美しいシルエットがある。荒い呼吸に肩が上下し、いつもは綺麗にセットしてある髪も今はすっかり乱れてしまっている。
「ギイ……!」
少年達を押しのけて、ギイは夏月に近づいた。
「こっちおいで。帰るのよ」
最初のコメントを投稿しよう!