2人が本棚に入れています
本棚に追加
「アタシがあんたを捜さないと――あんたのことを心配しないとでも、思ったの?」
マンションに帰り着き、それでもまだ玄関に立ち尽くす夏月を、ギイは乱暴に部屋の中へ引きずり込んだ。
二人、リビングの真ん中に突っ立ったまま、互いを睨むように見つめる。
「どこへ行くつもりだったんだ。あんた連中と一緒に」
「どこって……」
真剣な眼差しが夏月を射抜く。見つめられるだけで、胸がきりきりと痛くなる。
その視線が、唇を噛みしめる表情が、ギイの声にならない言葉を告げていた。――どこへも行く場所がないと言ったのは、お前の方だ。お前が自分から、ここへ来たんじゃないか。
夏月は眼を伏せた。うつむき、逃げるように顔を背ける。もうギイの顔が見られない。
「いちいち言ってやらなきゃわかんないのか、お前は」
苛立ちを押さえきれないように、ギイは言った。普段の口調とはまるで別人のような声だ。そのことが、彼が本当に怒っているのだと夏月に教えている。
「ちゃんとこっちを見ろ!」
ギイの手が夏月の腕を掴み、乱暴に引き寄せる。
「そんなに俺が信用できないか。一回二回警察に引っ張られたくらいで、お前を放り出すとでも思ったのか!?」
「だって……!」
本当は、信じていた。何があってもギイだけは最後まで自分を抱いていてくれると、心の奥では思っていた。けれどそんなふうにギイが優しいからこそ、これ以上一緒にいてはいけないと決めたのだ。
「こんな真似は二度と許さないからな」
細い顎に手をかけ、無理やり上向かせて、噛みつくようにギイはささやく。
「ここを勝手に出ていくことは、絶対に許さない。わかったか」
最初のコメントを投稿しよう!