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少年は左胸に拳を当てた。よし、とレグバは少年の耳元に口を近づけると、天使の名前を囁いた。
「この名前が苦手なんだ」
「へえ。分かりました」
少年はにっこりと笑った。
「では教えていただいたお礼に。
先生。ここからずっと東南の島に、魂を七つ持っている人たちが住んでいるという話をお聞きになったことがありますか?」
レグバは、その伝承を昔聞いたような気がしたが。
「さて?」
「そうですか」
少年は盲目だった。眼を閉じた賢そうな顔で、頷いた。
「先生もご存知のように僕たちは季節でパオを移動します。そして、移動した先で再会の挨拶として酒宴を開くのです。
僕は酒宴に呼ばれて馬頭琴を演奏します。その話も、そんな宴会で聞きました」
ネルグイは、馬頭琴の弦を爪で弾いた。じゃらん、と馬頭琴は乾いた音をたてた。
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