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「いやー待たせたねっ。わんは手荷物がないから一番さ」
朝英が小犬のようにレグバに走り寄ってくる。
「でもあれだね。あれ、出しておいて欲しかったさ」
「あれ?」
「だあ」
朝英は無邪気に旅行会社のプラカードを指差した。
「あれとは何だ?」
「うり、英語でミスター何とかって書いてある、あれ」
「はあ?あれは相手の顔を知らないガイドが待ち合わせに持っているものだろう?」
「うーん、でもわん、憧れているわけさ」
「そうか、では次回は持って、待っていよう」
「へへへ。嬉しいさ」
朝英は顔いっぱいで笑い、レグバに飛びついた。
さりげなくレグバはその手を払いのけるが、朝英は子どものようにむしゃぶりついてくる。
まったく、これから深刻な仕事が待っているというのに遠足ではないんだぞ、とレグバは文句を言うが、朝英のテンションは上がりっぱなしだった。
「あー。じゃ、にーにー、行こうか」
朝英は近くの幼児に手を振りながら、レグバに向って顎をしゃくってみせた。
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