東京モノレール

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それほど力のあるわけではない朝英であるが、あることに気持ちが捕らわれすぎて他のことに気の回らない無防備な母親の心が、悲鳴を上げていた。それが朝英に伝わってきた。   あなたも苦しいだろう、悲しいだろうが、大丈夫。気をしっかり持って待ちなさい。だんなさんは帰ってくるよ、という意味の言葉が彼女の知らない言葉で告げられた。 知らない言葉でも、それは、労せずして母親に伝わった。言葉の意味を理解したのではなく、心に直接響いてきたのだ。   え。と、しばらく彼女は朝英の顔を見つめていたが、突然その眼からはらはらと涙が溢れ出てきた。 何故自分のことが分かるのだろう。そして確信に満ちたようなこの言葉は。
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