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妻は柱の陰から一部始終を見届けると、ベビーカーを押しながら家路についた。
モノレールのチケットをどうやって買ったか記憶にない。
多分自分は青ざめているだろう。
誰かがモノレールに乗るのにベビーカーに手を貸してくれたような気もする。だが、礼を言っただろうか。
彼女は余裕がなかった。今にも叫びだしてしまいたい気持ちを押さえ込んでいた。
子どもに気を配ることもできなかった。
泣き続ける息子に、誰かがうるさいな、と舌打ちをしたような気もする。
彼女自身が耳を塞ぎたいような、世間から遮断されたいような気分でいた。
はっきり言って今の彼女にはすべてが煩わしかった。気持ちの余裕もなかったのだ。
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