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「そう。奥さんをちゃんと見ておきなさいって」
言い方は違えど、きっと師長が俺に言いたかったことはそういう事なんだろう。
「なんだろうね?私達2人とも似た者同士なのかなぁ」
「どういうこと?」
「伝えたい事言えずにモヤモヤして、結局第三者に自分達に何が足りないか教えてもらってるトコロとか。いろいろとね?」
いたずらっ子のように笑う彼女。
「それは明子だけだと思うけど?」
俺も口角を釣り上げて、ニヤリと笑う。
いやいや、ホントは俺もそうだって分かってるよ?
ちょっと言ってみたくなっただけだから。
「ヒドいなぁ、もう。どう見たって上総もそうですー!」
そんな風に拗ねたりしないでくれよ。
「はいはい、分かってるって。ほら、そろそろ飯の準備しようか」
キッチンに向かおうとソファーから立ち上がろうとした時だった。
「…もうちょっとだけ。あと少しでいいから側にいて」
彼女が俺の右手を強く引いた。
必然的にソファーの上に逆戻りさせられる。
俯きがちの明子は頬を赤く染めていた。
見ないでと言われてもそんなの関係ない。
こんな可愛い所見なくてどうする。
むしろ、見るなと言われるほど見たくなるのが男の性だろ。
「大丈夫。明子が満足するまでずっと隣にいるから安心して」
引かれたままの右手をぎゅっと力強く握りしめた。
離さまいと。
二人の間には優しくて静かな時間が流れる。
俺がずっと隣にいるから。
離れたりなんて絶対、いや一生する訳がないから。
だから、安心して。
全部俺に教えて。
君の弱さを。
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