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てか、そもそもこれを上総に言う必要があるのだろうか。
年頃の息子を持っているお母さんのようにそっと元あった場所に戻すべきなの?
何にも見なかったふりして、上総との日常を送る?
だって、いい年した大人なんだし……
…やっぱりダメだ。
言わないと気が済まない。
問いただしたりはしたくないけど、私じゃ上総を満足させてあげられないのならその理由を聞きたいの。
どうしても。
もしそれで直せる所があるのならそこを改善させていきたい。
新婚なのに夫に飽きられてるなんて洒落にもなんないわよ。
そりゃ、まだ式は挙げてないけど。
法律上は夫婦なんだし。
大ちゃん相手なら容赦なく捨ててやったのに。
上総にはそんなこと出来ない。
嫌われてたくないっていう気持ちばかりが前に出てしまうから。
…大事なのかもしれないじゃない、この本が。
悶々としている間にも時間は無意味に過ぎていく。
時計に目をやれば、もう11時。
疲れたせいかだんだん眠くなってくる。
何度か舟をこいでうつらうつらしていた時に、玄関の方から鍵が開く音がして、それと同時に上総の陽気なただいまの声が聞こえた。
あーあ。
いい感じに酔ってらっしゃるじゃないの。
「おかえりなさい」
あえてリビングから出ずに言ってやった。
「えー?なんだよ、冷たくない?ただいまって言ってんのに」
だんだん近づいてくる声には私が出迎えに行かない不満が含まれていた。
知らないから。
何も気づいてないからそんな風に言えんのよ。
楽しい気分で帰ってきたところ申し訳ないけど、自分がしたことなんだからちゃんと責任持って処理してよね。
「出迎えくらい来てくれたっ……」
「ゴメンね、私よりもこの子がいいのかと思って」
リビングのドアを開けて入ってきた彼が最初に見たのは、張り付くような笑顔の私とグラビアの女の子とのセット。
見る見る青ざめていくのがちょっとドアから距離のあるテーブルからでもよく分かった。
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