仲直りは真夜中に

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ドアを背にズルズルと崩れ落ちていく体はひどく重かった。 自分の部屋だけ外の空間とは別の重力がかかっているかのように。 支えきれなくなって項垂れていると背中越しに上総の気配を感じた。 …来ないで欲しいのに。 そのまま放っておいて欲しかった。 分かってる。 頭ではよく分かってるの。 エロ本くらい目を瞑ればいい。 知らないふりをしてやり過ごせば良かった。 でしょう? 「開けて、明子?」 弱々しい声がドアを超えて私の元に届く。 頭では分かってるのに、 それでも今は彼と話し合うつもりにはとてもなれなかった。 「会いたくない」 上総に聞こえたかどうかは分からない。 項垂れたまま答えたから。 しばらく二人の間で沈黙が続く。 静かすぎて、耳が痛くなりそうだった。 「…分かった。おやすみ」 それ以上、上総は何も言わなかった。 遠ざかる足音が寂し気で、罪悪感で押しつぶされそうだった。 あぁ。 何してるのよ。 こんなことで上総を悲しませるなんて、最悪だ。 今更こんなに辛くなる。 ただ虚しかった。 上総が私だと気持ちよくなれなくて、他の女の子が入り込んでくることが。 それだけだったのに。 それが私の中でこじれていくなんて思ってもいなかった。
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