第1章

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「工事、一日じゃなかったんだね。結構かかるの?」 「ん?あー……一か月は掛かるって」 「え?」 素っ頓狂な声を出した松浦に「ダメ?」と聞く宮倉の表情は駄目の選択肢が選ばれる事はないと知っている余裕の笑顔だ。 「いや、いいよ」 対する松浦は複雑な表情を浮かべ宮倉の荷物を外から見ていた。 一ヶ月…… 一日、いや二日でも気が重かったのに、蓋を開ければ一ヶ月。 呆然とした松浦に「もうちょっとあるから取ってくる」と背後から宮倉が声をかけた。 帰り道も渋滞していて家に着く頃には夕方になっていた。 運転中、宮倉に「あの店行ったことある?」と聞かれた。ちらりと見る宮倉の指先は家から目と鼻の先にある居酒屋を指していた。 首を振ると宮倉は「夜はここに行こう」と言った。 そこはお世辞にも綺麗とは言えない店構えで松浦は一度も行きたいと思ったことはなかった。もうちょっといい所が他にある。マンションの入り口とは反対方向、建物の裏手には小さな洋食屋がありそこは人気があると聞いていた。松浦自身は行ったことはない。夜、一人でどこかに食べに行くというのは松浦には出来ない事だった。前々から気になっていたそこに今日誘おうかと思っていたのに…… しかし本人が行こうというのに断るのも憚られ、まあ、一か月もいるならいつか行けるだろうと考え直した。 荷物を一緒に運ぼうとバックを取ろうとすると宮倉に断られ代わりにスーツを運ぶよう頼まれた。 クローゼットにスーツを掛けながらここも掃除していて本当に良かったと思う。 手伝いを断られた松浦がリビングでコーヒーを飲んでいると、荷物の片づけが終わったようで宮倉が部屋に入ってきた。 「コーヒー飲む?」 「いや……飯行こうか」 「あ、そうかもうそんな時間だね」 かたんと音がして部屋の空気が動いた。冷気を首もとに感じる。 キッチンから顔を出すと宮倉がリビングの窓を開けベランダに出ていた。 「眺めいいな」 そう呟いた宮倉に「寒くないの?」と声をかけた。 寒風がひゅっと吹き付ける。 十五階にあるここは普段から風が強い。 振り向いた宮倉は「今から外に出るんだろ」と松浦と目を合わせ笑う。 今日は……たくさん笑いかけてくれる。 宮倉は意識的にそうしてるんだろうか。身を乗り出して下を見る宮倉の背中を焦って引っ張ると、また「落ちるわけないだろ」と笑う。 これまでの日常と違う。
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