第1章

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繭の中後編 新年度が始まって二週目の金曜日、いやそろそろ日付が土曜に変わる時刻だ。 もっと早く帰宅する予定だったのだけれど、そんな時に限ってトラブルは起きる。 書類の不備、しかも二枚だけだったからそう時間は掛からなかったが、思っていたより二時間帰宅が遅れた。 夕食もそこそこに松浦は雑巾とはたきを準備しマスクを装着した。 もともと父が所有し仕事でこちらに出てくるときに使っていたというこの家は、一人暮らしには広すぎる。 当初の4LDKを3LDKに変更した間取りは南に広いリビングと15畳近い自室、北東と玄関隣に約六畳が一部屋づつある。 自室とリビングしか使わないから普段残りの二部屋は閉め切ったままにしていて、三日前慌てて部屋を掃除しようとして入るとくしゃみが止まらなくなった。 ここ三日、自分が居るときに窓を開け換気はしているし雑巾掛けはもう三度はしている。 「よし、」 気合いを入れて北東の、宮倉に提供する予定の部屋から三度目の大掃除を始めた。 「土曜日風呂の工事が入ってしまったので泊めて欲しい」 宮倉からそうメールを貰ったのは火曜の朝だった。 風呂どうしたの?と聞いたら良く分からん工事がある、とだけ答えた宮倉に松浦はしばらく考え「家でよければ」と返した。 宮倉の家に泊まった翌週の月曜日は24日、クリスマスイブだった。 特にトラブルもなく業務を終え、帰宅しようとデスクを整理していた時に携帯が鳴った。 見るとすぐ前に座っている宮倉からのメールで、内容は食事の誘いだった。 返信しようとしていたら瀬戸が「うわぁ、クリスマスイブに彼女とデートですか?」と寄って来て、その時やっとその日がクリスマスイブだと思い出した。それまで綺麗に忘れていた。 言い淀んでいると宮倉が「課長は振られたらしいですよ」と口を挟んできた。 それを聞いた瀬戸から「じゃあ俺と飲みに行きましょうよ!」誘われ、はっきり断れずもごもご口を動かしていると宮倉が「じゃあ三人で行きましょう」と提案し三人で飲みに行くことになった。 その後年明けに一度電話がかかって来て「暇なら明日家に来る?」と誘われた。 どういう用件があるのか分からなかったけれど断る理由もなく行くと答えた。 電話を切った後、翌日何を着ていこうかと考え始めたがなかなか決まらず寝る直前まで悩み、結局布団に入っても考えてしまいあまり眠れなかった。
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