第1章

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最低限の道具はありそうな気はするがよくよく考えてみて、米すら炊かない自分におかずが作れる筈もない。 いつも通りでいいか。 宮倉も一人暮らしだからきっとそう変わらない生活だろうと思いながら売り場を移動した。 あれからずっと何か忘れているような気がしてならないがまったく思いつかず今に至るのだが…… 雑巾を洗いながら松浦は出てしまいそうになるため息を飲み込んだ。 この数日の自分はどこか緊張している。 深夜に掃除機をかけるのは気が引けるので床を拭くしか出来ない。 明日の朝は掃除機をかけたいなあと思う。 床を拭いて次はクローゼットを開く。 客用のこの部屋にはベッドしかなく荷物といえばこのクローゼットにスーツを入れていただけだった。 それももうすでに移動させたのでここには何もない。 まあ風呂の工事なら二日もかからないだろうからクローゼットは使わないだろうが何となく見られたくないので、念には念を、だ。 部屋の掃除を終えてリビングに置きっぱなしにしていた雑誌を自室に移動させキッチンのペットボトルの殻を纏めてベランダのゴミ箱に入れる。 部屋に戻って他にやる事はないだろうかと一回りしたが見つけられず足が怠くなったのでソファに腰を下ろした。 やっぱりまだ何か忘れている気がする。 掃除もだし、準備忘れもありそうだ。 はぁと、今度は止める間もなくため息が零れた。 布団に入っていつものようにごろごろと転がる。 明日の今頃は宮倉がこの家にいる。 どうして自分に泊めてと言ったんだろう? どういうつもりなんだろう? まさか、……ああいうことがまたあるんだろうか? 今までに二回、宮倉は自分を抱いた。 最初は多分酔った勢いで、二度目は……あれは何だったんだろう? 俺にしとけ、と言った宮倉の声を思い出して身体が熱くなるのを感じる。 このことを考え始めるとつい自分に都合の良い解釈に、期待の混じった答えに行き着いてしまって戸惑う。だから考えないようにしていた。 でも流石に明日その本人が来るとなると考えずにはいられない。 ここしかないから頼んだんじゃなくて、ここがいいから頼んだのかな…… 布団の端をぎゅっと抱きしめる。 だって二度目は宮倉の家だったし、 嫌だったなら二度も抱かないと思うし、 少しは、ほんのちょっとくらいは自分に、気があるんじゃないか…… 布団に顔を押し付けた。 でもそう思うと瞬時にもう一人の自分が否定する。
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