第1章

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期待していいことなんかない。 宮倉は自分は違うと言っていた。 宮倉は違う、女の人が好きなんだ、あれはきっとただ性欲を発散したかっただけで、相手が誰でもよかったんだ。 布団を抱きしめたまま反対に転がった。 宮倉のせいで感情の波が激しい。 宮倉のせいで混乱する。 こんな状況苦しい、嫌だ。 でも…… こうなる事はメールで返事をした時にすでに予期していたし、それでも自分は断らなかった。 自分はおかしい。本当におかしい。 ごく普通の、平穏な日々が一番だと思っていたのに、 その為に自分を殺してどうでもいい嘘までついてきたのに、 それをぶち壊すような存在の宮倉に関わっていたいと思う。 これが好きということかな? いや、違う。 好きだという気持ちは前からあった。それがあっても、隠し『普通』でいる事を望んでいた。 じゃあ何? この訳の分からない気持ちは…… 自分が今いる位置を把握できていない。 それが、とても怖い。 心許ない今、誰かに縋りたい。 そう思って浮かんだのは当の宮倉だった。 本当に自分はどうしようもないなと思いながら布団の中に潜って目を瞑った。 朝早く目が覚めて掃除機をかけ、トイレに風呂も掃除をした。 何時に来るのか分からないから焦ってすべて午前中に終わらせたけれど、やる事がなくなると今度は心細くなる。 いつ来るのか気になる。 でも聞いて急いで来られても困る。 松浦は座っては立ち、リビングをぐるりと周り各部屋をチェックしてまたリビングに戻り冷えたコーヒーに口をつける、それを繰り返した。 そう言えば朝からなにも食べていない。 空腹ではないけれど、宮倉が来た後にぐうぐう腹が鳴ったら恥ずかしい。 松浦はダウンを羽織り財布をもって外へ出た。 雪こそ降っていないが外気に触れてすぐから鼻と耳が痛くなるほど風が冷たい。 身を縮めマンションから右に信号二つ越えた先のコンビニに急ぐ。 おにぎりを一つ。具は……特になんでもいいんだけど……手を出した先に高菜があったからそれにした。 そうだ、冷たい飲み物がミネラルウォーターしかなかった。 お茶もあった方がいいかもしれない。 こういう場合、緑茶がいいんだろうか?自分は拘らないけど……見るとノンカフェインと書いてあるものもある。 好き嫌いもある。聞けばいいのだけど……簡単に話し掛けられる関係ではない、気がする。 暫く悩んで結局緑茶、麦茶、烏龍茶、すべて買うことにした。
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