第1章

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少し重たくなった籠をレジに運ぶ途中、ビールが並ぶ棚の横を通った。 あ、もしかして晩酌するのかな?うちには今確か酒はない。 宮倉の好きなメーカーはどこだろう?どれが好きだろう? これもまた、松浦は分からない。 逡巡する自分を叱咤して目についたものすべて籠に入れた。 迷っている暇はないのだ。 ついでにつまみも適当に入れた。 はみ出すほど商品を入れた籠をレジに置いた時には持って帰るそう長くはない道のりが嫌になるほど重たくなっていた。 店を出ると白く色づいた吐息が瞬時に消えるほど風が強くなっていた。 両腕が痺れるほど荷物が重くて寒がっている場合ではない。 帰路を急ぎながらふと、宮倉は荷物、どのくらいあるんだろう、と思う。 もしかして……迎えにいったほうがいいんじゃないかな? 車はあるし、家も、知ってる。 そうだ、最初からそうすれば良かったんだ。 気が利かない自分が嫌になる。 とにかく家に帰ろう。 荷物を置かないことには迎えに行けないし。 携帯を取り出したいけれど荷物を抱えてメールを打てるほど器用じゃない。 足早に信号を渡るともうそこにマンションが見える。 道沿いの植え込みに人影が見える。 背の高い男。 背筋が伸びていてコートの上からもがっしりした肩回りが分かる。 見覚えある、黒いトレンチコート。グレーの手触りのよさそうなマフラー。 そして遠目にも目立つ目鼻立ちの整った横顔。 松浦の足が止まる。 さっと血の気が引く。 え、なんで?もう……いるんだ? ポケットの携帯を取り出した。 着信がある、たった今だ。 どうして、音が出るようにしていなかったんだろう…… 何も今じゃなくても、隠れようかと思ったその時こっちを向いた宮倉があっという顔をした。 見つかった…… 宮倉が自分の両手を交互に見ているのがわかる。 歩み寄ると小さく首を上下させた宮倉が「すごい荷物だね」と言った。 今更隠すことも出来ず松浦は苦笑いを浮かべた。 「何が要るか分からなくて、多くなっちゃって」 「持つよ」 「あ……いいよ、」 松浦の右手から強引に膨らんだレジ袋を取り上げると宮倉は目の前のマンションを見上げた。 つんと高い鼻が少し赤い。 「今迎えに行こうかと思ってた」 「ん?ああ、そう。あ、そうだ後で車借りていい?」 「え?それはいいけど。どうしたの?」 見上げた松浦に宮倉はにっこりと笑うだけだった。
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