第1章

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気に入ってくれただろうか? 反応が気になって窺うとコートを脱ぐ宮倉が「どうも」と言った。 顔は見えなかったけれど声は特段変わった様子はない。 とりあえず合格かな…… ほっとして松浦は先に部屋を出た。 コーヒーを二人分淹れソファの前のテーブルに置いたところで宮倉がリビングに戻ってきた。 「ここ、何部屋あるの?」 「3LDKだよ」 「へえ」 スティックシュガーとミルクを盛った籠をソファに座った宮倉の近くまで滑らせたが、宮倉はブラック派のようでそのままカップを口に運んだ。 ソファから離れたテーブルの角に自分のカップを置いてちらりと宮倉を見た。 いつもの、見慣れた自分の家に宮倉がいる。 その不自然さについじっと眺めてしまい視線に気が付いた宮倉と目が合った。 慌てて顔を俯けコーヒーを飲んだ。 「今日はどうする?その……やっぱり泊まるの?」 「ダメ?」 「あ、いや、そうじゃなくて……荷物が少ないから、」 ソファ横の宮倉のバックに目を向ける。 泊まる予定は変わっていないらしい。 それにしてはこの荷物……とても外泊する人間の量ではない。財布と、入っていても下着くらいか。 もちろん貸せる物は貸すが、自分と宮倉では体格が違うので着衣は難しいと思のだが。 自分の持っているパジャマで大きいのってあったっけ? 「だから車で取りに行こうと思ってるんだけど」 「あ……そうか」 「それと、」 宮倉はキッチンに首を向けて「ちょっと見ていい?」とそちらを指さした。 「え?」 さっと立ち上がった宮倉は松浦が返事をする前に西向きのキッチンへ入っていく。松浦も急いで後を追った。キッチンも綺麗にしていて良かった。胸を撫で下ろしながら宮倉がどうしてキッチンを見たいのか不思議に思う。 「松浦さん、全然料理しないんだろ?」 「あ、うん。……ご、ごめん」 「いや……いいんだけど」 何にごめんか自分でも分からない。宮倉は「ちょっといい?」を繰り返して流しの下の収納や戸棚を開けた。 宮倉の行動にあわあわしながら、しかし目的が分からないので止めることも出来ず松浦はただ宮倉の後ろに立っていた。 「すっげえな、見事に何にもない」 「ご、ごめん」 「だからいいって」 くすっと笑った宮倉は満足したようでリビングに戻っていく。 そんな宮倉の背中を突然理由もなく丸裸にされたような気持ちのまま暫く眺めていた。
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