第1章

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松浦が帰社したのは昼過ぎだった。 扉を開いたのは山下で、その顔を見て背後をじっと見ていると予想通り後ろから松浦が入ってきた。 「お帰りなさい!」 瀬戸が二人にそう声を掛けると山下は「お土産あるぞー」と持っていた紙袋を持ち上げた。 松浦も笑ってはいるが、睨むように見つめる宮倉には目もくれない。 瀬戸が土産を受け取り坂下と二人でもうパッケージの包装を破いている。 三人は出張先の話を始めた。 そんな周囲の雑音も、不快に感じる余裕はない。 見据えた先の男は席に着くやPCの電源を入れ書類を鞄から引き出し眺めている。 一切こちらを見ない松浦に宮倉はある意味安堵した。 意識して無視されているという事はつまり自分の事を気にしているからだ。 宮倉はゆっくり立ち上がると松浦のデスク前に立った。 自分が近づいたことにもちろん松浦は気が付いている、立ち上がった瞬間睫毛が不自然に揺れた。 しかし松浦はPCを見たまま一言も発しなかった。 無視する姿勢が癪に触る。 このままずっとここに立っててやろかと大人げない思考が過りが自分でもあほかと思う。 「ちょっとお話があるんですが」 松浦を見下ろしながら言うと先の松浦の動きがぴたりと止まる。 「悪いが今から総務に行かなきゃならないんだ。後にしてくれるか?」 静かにそう言う。 松浦は目を落としたまま少し顔を上げて少し微笑んだ。 引き攣った顔は自分を拒絶して見え胸が騒ぐ。 よく見ると書類を持っている手が小さく震えている。 思わずその手を触ると松浦は声こそ出さなかったが大げさに手を引いた。 書類がデスクに落ちる。 落とした書類を拾い松浦に渡す時身体を近づけ松浦の耳元で「あっち行くぞ」と囁いた。 松浦ははっと息を飲んで顔を強張らせ、次の瞬間話に夢中の山下達に目を向けた。
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