401人が本棚に入れています
本棚に追加
こちらの話に気が付いていない山下達を見て安堵のため息を漏らした松浦は宮倉をきつく睨む。
やっとこちらを見た松浦に微笑むと松浦は眉根を寄せて唇を噛みしめた。
オフィスを出て、扉の隣で壁に凭れ待っていると数分おいて扉が開いた。
松浦は扉を閉めた後もこちらを見ることなく「職場は仕事をするところだから、プライベートな話はしたくない」と暗い声で呟き宮倉に背を向けた。
歩き出した松浦の手には先程見ていた書類があった。
カッと頭に血が上り後ろから松浦の腕を掴んだ。
「電話に出ないあんたが悪いんだろ?」
小さく言ったのは周りを気にする松浦の為だ。自分はあまり気にならない。
腕を振り払おうとする松浦に一歩近付きまた囁く。
「ここで揉めたら、いろいろマズいだろ?」
こう言えば松浦は大人しくなるだろうと思っていたが予想通りだった。
力一杯引いた腕の力が抜け、今にも泣きそうな顔になる。
腕を掴んだまま歩きだすと松浦も大人しく付いてきた。
我が課から扉二つ向こうに会議室がある。
そこに松浦を引き込み内側から鍵を掛けた。
ここの鍵は各課に置いてあるのでいつ誰が来るか分からない。
扉近くに俯いたまま立つ松浦になんて声を掛けようか迷う。
一歩近づくと一歩離れた。
「こういうの、困る」
「……あんたが電話に出ないのが悪いだろ」
口火を切った松浦は顔を下に向けたままぼそぼそと言う。
「僕は仕事で行ってたんだぞ、山下だって一緒だったし」
「昨日の朝は出れただろ?……いや、こんな話しようと思っていたんじゃない。謝ろうと思って……悪かった」
俯いていた顔がゆるゆると上がる。
蒼い顔は変わらずこちらと視線を合わせない。
最初のコメントを投稿しよう!