第1章

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鍵を開けてそっと中に入る。 早く帰りたかったけれどこうして、もうすぐそこに松浦がいるかと思うと少々気まずく感じる。 あまり考えないようにしていた。 結果自分は松浦を愛しているし、そこまでの経路がどんな道筋でもその先に延びる道が真っ直ぐだったらいいかと……まあ、俺に都合の良い、いい訳だ。 松浦の立場から考えると、キレてもおかしくない状況だと思う。 好きだと思っていた男に犯されたんだ、そりゃあ気持ちいいわけないか。 松浦の好意の上で胡座をかいていた自分について考えれば考えるほど酷い男だと思う。 リビングの扉に近づくと向こうから開いた。 「おかえり」 半開きの扉の真ん中で松浦はリビングの光を背負ってふわりと笑う。 暗い廊下からだと眩しい。 濃紺のパジャマ姿の松浦は入浴剤のいい匂いをさせている。 「ああ、……ただいま」 見たことのない力の抜けた松浦に戸惑う。 「あの、料理は出来ないからお弁当買ってきたんだけど、いいかな?」 随分と機嫌の良いように見える松浦はダイニングテーブルをちらりと見た。 二つ、弁当が置いてある。 「食べてないの?」 「うん、すぐ終わるかと思って待ってたよ」 「そう」 一旦リビングを出て荷物を置いている部屋に入ると後ろから松浦が付いてきた。 コートを脱ぎネクタイを緩める宮倉をただそこにいて見ている。 「……どうかした?」 「ううん、別に」 「先風呂入るから食べてて」 瀬戸の言葉を思い出して極力優しげに言う。自分には、確かに優しさが足りないのかもしれない。 「待ってる」 心持ち大きい声で松浦が言ったので外したネクタイをハンガーに掛けながら後ろにいる松浦を振り返った。 てっきりドアの近くに立っていると思っていた松浦は案外近くにいて振り返った瞬間肩が身体に当たった。 「悪い」 「ううん、大丈夫」 松浦はにっこりと笑う。 本当にどうしたんだろう? 言いたいこと言ってスッキリしたのか? まるで憑き物が落ちたような松浦に戸惑いを飲み込んで笑い返した。 宮倉の知っている松浦は大抵俯いているか顔を赤らめていて、話し掛け辛い雰囲気を醸し出していた。 童顔を綻ばせた今の松浦を見ていると、課の面々が可愛がる気持ちが少し分かった気がした。
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