第1章

18/22
前へ
/43ページ
次へ
食事を終えてビール片手にソファに座る。 ここのソファは座り心地がいい。 高価な革張りの硬さも安価で身体が沈みすぎるソファも嫌だ。 これは何もかもがちょうどいい。 これも譲渡品かと思ったらソファは二年前に買い替えたという。 飲みながらぼんやりニュースを見ていると普段なら「先に寝るよ」と声をかけて出ていく松浦が真横に座った。 片手にビールを持っている。 「珍しいな」 「ん?」 「いや、ビール」 首を傾げた松浦の頭が肩に触れる。 ふわりと洗い立ての髪から甘いにおいがする。 そのまま身体を寄せて松浦は「飲みたい気分だった」と囁いた。 ちょっと、やばい。 今日の今日でセックスはしないつもりだった。 自分ではお互い楽しんでると思い込んでいたが松浦は違っていた。 強い意志でそう思ってはいるのに隣に好きだと思うひとがいてしな垂れかかられればあっけなくそういう気分になってしまう。 ゆっくり身体を離すとそれ以上近づいては来なかったが火の付いた感情がまた隣を襲うといけない。 宮倉は立ち上がると「先に寝るから」とほんのり色付いた頬の松浦に苦笑しながら頭を撫でた。 キッチンにビールの缶を置くと真後ろに松浦が来ていて「僕も寝る」と同じように缶を置く。 カルガモかと思う。さっきからずっと後を付いてきている。 結局一緒にベッドに入って電気を消した。 ボーっと暖房がたてる小さな音が響く。 松浦に背を向け寝転がってふとそういえば昼間、話が途中だったと思い出した。 もうちょっと、ちゃんと話したほうがいい気もしたが腰の折れた話を再度持ち込むのは終わったことを蒸し返すようで切り出しにくい。 松浦自身も忘れたようにしているのでもういいのかもしれない。 そんな事をつらつら考えていると、背中をそっと触られた。 「週末暇?」 「……ああ、特に予定はないけど」 「じゃあさ、どこか行こうか?」 ぐりんと身体を返して松浦を見た。 普段とまるで違う事を言う松浦が暗くてよく見えないがどんな顔をしているのか気になった。 週末はもし社の人間に二人でいるところを見られたら……とちょっと買い物に出るのも嫌がっていたのに。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

401人が本棚に入れています
本棚に追加