第1章

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終幕 ポケットの中で震えたスマホの事をすっかり忘れていた。 瀬戸が「カレ―食べに行きましょう」というのでもう昼かと時計を見た。 十二時をとっくに過ぎている。 連れだって社に近い食堂に入り注文したところで瀬戸が携帯を取り出した。 年明けから緩みっぱなしの瀬戸の顔が携帯を見ながらさらに緩む。 それはそれは腹立たしい程に。 「瀬戸、顔」 「あ、すぅみぃまぁせぇーん!まぁたシアワセ零れちゃってましたか?」 顔だけじゃなく声までシナを作って気持ち悪いったらない。 瀬戸は年末から年明けにかけて『自分の一生で一番頑張った』と鼻息荒く言うくらい押したらしくその結果君塚茜という女子社員とお付き合いを始めた。 幸せなのは良く分かったが、うざい。 鼻白む宮倉を意に介す様子は微塵もなく白井は携帯を弄っている。 「茜ちゃん毎日『お仕事がんばってね』メールくれるんですよう!もーどう思います?愛に溢れてますよね?よねえ?」 「はいはいよかったなー」 惚気る瀬戸に俺だって朝はそう言われてる、と言いたくなったが止めておいた。 前の男に呆れ嫌味の一つも言いたくなったところでカレーが運ばれてきた。 「いっただきあーす!」 元気よく言って自分の二倍はあるカツカレーにスプーンを突っ込んだ瀬戸に呆れため息が出た。 そしてふと思い出した。 自分のスマホも午前中震えていたと。 食べる前にそれをポケットから取り出し確認した。 メールの着信があり開く。 そして思わず舌打ちしてしまい瀬戸が驚いて食べる手を止めた。 「どど、どうしたんですか?」 「いや」 「あ、分かった。彼女になんか言われたんでしょー!あ、もしかして浮気がばれた、とか?」 「……してねえよ」 うざい、黙れ、と言いたかったが睨むだけにしておいた。 「えー宮倉さんめっちゃもてるでしょ?彼女が離すわけないものー!そうなってくると浮気しかないでしょー!」 「違うって。それに俺もてんよ」 「またまたー」 カツを食べながら瀬戸がからかう様に言う。 浮気は無いしモテないのも本当だ。 容姿がどんなに好みだったとしても恋愛する気のない人間に食い下がるほどみな暇じゃない。 という訳で俺はモテない。 高校に入ってすぐの頃大失恋をした。 それ以来特定の相手は作らず遊ぶくらいの関係しか結んでこなかった。 そのツケがこれか、と思う。 『今日は白井の家に泊まる』 来たメールにはそう書いてあった。
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