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「ぼんやりしてるだけなら愛実抱いてて。もうそろそろだから用意する」 ほら~パパですよ~と言いながら紗奈は愛実を俺の腕に移した。 おととい、ばたばた帰宅、驚きの余波であわあわしちゃってた俺に紗奈は優しげに囁いた。 『とうとう唯ちゃん言ったらしいね、愛実寝てるから叫ぶんじゃないよ?』 俺の肩をぽんぽんと叩いた紗奈にまた驚く。 知っていたのにも驚いたし、それで平静で居られた事にも驚いた。 いや、別にホモとかゲイに偏見がある訳じゃない。しかしいざ身内となると…… 心配じゃないのかな?と思ってしまった。 「おおう、まなみちゃ~んパパでちゅよ~」 愛実の顔が笑顔からふにゃりと歪む。 「あああ!まなみちゃ~ん泣いちゃダメでちゅよ~」 じっとりと生暖かい我が子は泣く寸前。 こんなにも愛しているのに俺が抱くといつもこの表情だ。 「ママ、ママぁ~」 紗奈のもとに駆け寄ると不思議なもので愛実はふにゃりと笑い始めた。 こうなったらもう、紗奈の側で抱いているしかない。 「なあ、相手さ、見た事ある?」 「あるよ」 テーブルを拭きながら紗奈は短く言う。 「なに、写真でも見せてもらったの?」 「まぁそんなとこ」 今度は食器棚の奥から お高いグラスを取り出しながら。 わざわざそれじゃなくて良くない?そんなに気を使わなくても良いんじゃない、だって弟と後輩だぜ?と喉元まで出かかったが寸でで飲み込んだ。 睨まれるのが落ちだと知っている。 学生時代バイトしていた花屋の二階の店に紗奈はいた。 飲み屋街にある花屋だったからそりゃ綺麗なオネェサンはたぁくさん前を通過して行ったが、俺が声を掛けたのは紗奈だけだった。 薄化粧に真っ黒の髪をひっつめて、背筋をピンと伸ばし颯爽と歩く姿が、そこらをいく香水臭い厚化粧のオネェサンより数倍美しく見えた。 一目惚れってやつだ。 拝み倒して付き合い始めたからどうも……力関係がその時のままで…… いや、不満は全くない、ないぞ! 「イケメンよね、彼」 「んん!だよな、……そうなんだよ、それがさ……問題っていうかさ、」 「なによ?はっきり言いなよ」 ギロリと睨んだ紗奈は俺の腕で愛実がきゃっと笑うと一瞬で笑顔になり愛実に「まなみ~」と声をかけた。 「……俺とあいつって、ちょっと似てね?いやなんか、そう言われた訳じゃないんどけど、なんとなくさ、似てるだろ?」 声を潜めて言うと紗奈ぶっと吹き出した。
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