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いやこれは笑い事じゃない。 由々しき事態なのだ! 「俺さ……唯ちゃん、俺の事好きだったんじゃないかと思うのよ。ほら、好きになった人が実は姉と付き合ってた、ガーン、そこに好きな俺と似た男登場……これ宮倉ね、みたいな感じでさ」 真剣な表情を浮かべてるはずの俺を見てひーっと腹を抱えて紗奈は笑う。 何故か愛実も大笑いだ。 「おまっ、笑い事じゃないよ?唯ちゃん、俺達の事見ていつもハートブレイクだったかもしれないんだぞ?あー俺、これからどんな顔して会えばいいの?」 「そんなに気になるなら本人に直接聞けば?好きだったの?って」 はぉはぁと息を切らした紗奈に難しい顔をして見せる。 「聞けないだろ?いくらなんでも!」 そう言い終わらないうちにピンポーンとチャイムが鳴った。 「私、あなたのそんなとこ、本当に好きよ」 紗奈はそう言い残し玄関に向かった。 最高の笑顔で。 なんだ今の?モテる俺の魅力にドキッてことか?もう紗奈ったら惚れ直しちゃった?いやん! 浮かれ気味に玄関へ向かうと「しらい!」と鋭い声が飛ぶ。 玄関とは別の方から唯ちゃんの声がして驚いた。 「え?え?え?」 横の洗面所から飛んできた唯ちゃんが愛実を奪い取った。 「駄目だろっ!まだ縦にしていい時期じゃないんだぞ!」 すごい剣幕で若干引く。 「ご、ごめんなさい、」 怖いからとりあえず謝る。 唯ちゃんは愛実の最終的な名付け親だ。 名前の候補は三つあり、産まれる直前まで悩んでいた。 たまたま遊びに来た唯ちゃんにどれがいいと思う?と紗奈が聞くと、唯ちゃんが迷いなく指差したのはこの名前だった。 理由は「愛が実るなんて素敵だよ」だ。 紗奈がそれを聞いて「よし、これにする!」と決めた。 まあ、それだけが理由という訳じゃないと思う(だって我が子ながら愛実は顔もいいし、気立てもいいし、なにがなんでもとにかくかなり可愛いしっ!)けれど、唯ちゃんは愛実を溺愛していて愛実も唯ちゃんが大好きだ。 俺に抱かれると泣くくせに、唯ちゃんだとにっこり。 我が家ではひそかに第二のお母さんと唯ちゃんを呼んでいる。 「お邪魔します」 後ろから声がかかって振り向くと宮倉がビデオを構えたまま小さく頭を下げた。 「お、おうっ!」 そう言って背中をぽんと叩くと宮倉は嫌そうな顔で俺を見て、すいと目を唯ちゃんと愛実に向けた。 なんだよ?おぉい!
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